年会長挨拶

ご挨拶

第36回日本毒性病理学会総会及び学術集会 会長
中 江  大
(東京農業大学 応用生物科学部 食品安全健康学科)

私儀、

第36回日本毒性病理学会総会及び学術集会(年会)の会長(年会長)を拝命いたしました。精一杯務めさせていただきます。第36回年会は、2020年2月13日(木)および2月14日(金)の2日間、東京都世田谷区の東京農業大学 世田谷キャンパスにて開催する予定です。加えて、前日の2月12日(水)には、恒例により、認定毒性病理学専門家資格認定試験問題の解説と第32回スライドカンファランスが開催されます。

毒性病理学は、医薬品・(残留)農薬・食品関係化学物質・化成品・化粧品など様々な化学物質のヒトに対するリスクを、形態学的手法を基盤とし、生化学・生理学・分子生物学などの隣接分野に由来する多彩な方法を駆使して評価する学問です。日本毒性病理学会(JSTP)は、毒性病理学の進化・発展を目的として設立され、これまで多くの研究成果を生み出し、当該成果を以て科学と社会に多大に貢献して参りました。しかし、JSTPを取り巻く内外の状況は、かなり厳しいものです。たとえば、近年開発が進むバイオ医薬品・核酸医薬品などでは、低分子医薬品に比べ、毒性病理学の活躍の場である動物を用いた「毒性試験のニーズ」が低くなっています。加えて、動物福祉推進による動物実験の減少、動物実験代替法の進展、毒性評価におけるin silico手法の発達や、人工知能(AI)技術を用い蓄積された臨床知見を医薬品開発に利用するリアルワールドデータ/エビデンスの利用が今後進展することが予想されます。しかしそのような状況下であっても毒性病理学専門家の需要がなくなることはなく、むしろ変化する科学的・社会的情勢の下でJSTPは今後も社会から必要とされる毒性病理学の維持・発展、そして、その専門家の育成を担っていかなければなりません。そのために、JSTPは、その活動範囲を拡大する必要があります。ひとつの方向性は、医薬・農薬など従来の対象分野に拘らず、毒性病理学を含む安全性評価への関心が高い新たな分野に発展し、それら分野を取り込むことです。たとえば食品分野は、これまでも一部対象としてきましたが、今後、主たる対象分野の一角として位置付けるべきです。そしてもちろん、取り組むべき分野は、食品分野に限りません。いまひとつの方向性は、新たな科学技術を取り込んだ守備範囲の拡大です。JSTPは、これまで動物実験に対する形態病理学的解析を基盤とする、古典的な意味での「毒性病理学」を重視してきました。もちろんこれまでも分子生物学/工学やハイスループット技術に立脚した新しい手法を取り込んではきましたが、今後はさらに積極的に新しい手法に取り組み、既に一部で応用も始まっているin silico病理学・細胞病理学(in vitro病理学)、動物実験代替法や幹細胞を用いる新評価法・実験手法における病理学、リアルワールドデータ・AIを用いる新評価法・実験手法における病理学、などの取り込み・実装を図らねばならないものと考えます。また、JSTPは、これまでの実績に基づき、毒性病理学者の知識・経験・識見を駆使して、安全性情報を一般社会に正しく伝える、リスクコミュニケーションの分野にも、自ら積極的に関与していくべきです。

年会は,会員が最新の知見・情報を交換・共有し、また、若手を教育する場として機能し、JSTPの活動の核として、その社会貢献において重要な位置を占めるものです。したがって、第36回年会においては、「新しい世界へ:毒性病理学と日本毒性病理学会のこれから」をテーマとして掲げ、科学的・社会的な環境やニーズが大きく変化しつつある中、それらに対応して進化する、また、進化すべき毒性病理学とJSTPの現在と将来を論じ合う場を提供することを計画し、プログラム委員会を中心に魅力ある企画を模索し、国内外の最前線のインフルエンサーたる第一人者の方々による指定演題の講演セッション(特別セッション・シンポジウム・ワークショップ等)のほか、現場の研究者による一般演題のポスターセッションも併せ、参加者に満足していただく計画を練っているところです。第36回年会では、参加してくださる皆様に毒性病理学の将来がどうあるべきか、また、それぞれがその中で如何に行動すべきかについて想いをいたしていただき、それらに基づいた楽しい情報収集・意見交換・人的交流を行っていただければ倖です。それでは、多くの皆様方の御参加を心よりお待ちしています。

さあ御一緒に、新しい世界へ!!

ページトップへ ▲
東京農業大学助成金交付学術集会 ヤクルト中央研究所バナー